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既作 初夏|Trilemma,
日差しが照りつけている。
向こうの空には綿あめ雲が見える。日陰に逃げても熱気がまとわりついてきて、拭っても拭っても汗が落ちていった。流石に、真夏にジャージはゴーモンだと思う。僕が勝手に着てるんだから文句は言えないんだけど……。
水やりホースから水が絶え間なく流れる。口を下に向けていたから、僕の足を濡らしながら水溜まりを作っていく。
「暑いなら水飲んどけよー」
「分かってるー…」
日向で水やりをしている翔が声をかけてくる。そういえばさっき、持ってきた分は全部飲んでしまったような気がする。
スニーカー越しに水が染み込んでいく。ほどよく冷えて気持ちよくて、ついついその場に立ち止まっていた。
2年生になって、ようやく園芸部の活動に慣れてきたと思う。
水やりのコツを覚えたし、虫にも慣れた。最初は何も触れなかったけど、最近はダンゴムシとワラジを見分けられるようになってきた。たまに丸めて遊んでいる。
花壇が小さいのでそんなにキツくないし、花や野菜に詳しくなれたし、意外と、草の青臭さが好きになった。
一緒に入った友達の翔は、世話好きが高じて色々なことを始めている。前はサボテンを育てたいと顧問に直談判していた。
日向で翔が水を撒いている。そろそろ手伝いに行かなきゃ、とべちょべちょの足を動かした。
足元の小池を蹴って水を撒けば多少は涼しくなっていくような...気はしない。暑いものは暑い。
ホースを引っ張りながら、翔に近づいて声をかける。
「どう?」
「これで終わったぞ」
「えぁ、もう? あ〜ごめん...サボってた」
「しゃーねぇ、暑いし。俺も休む」
翔が水やりをやめて笑う。
帽子を外して、陰になっている校舎の傍に寄っていく。僕も水を止めて彼に着いていった。
そのまま壁に寄りかかって座ると、なんとなく暑さが和らいだような気がした。
「雨宮」
翔に飲みかけの水筒を渡される。少し飲むと随分すっきりして、笑えてきた。軽くなった水筒を足の間に抱いて、運動部の掛け声をぼんやり聞いていた。
おもむろに頭を撫でられる。
翔はよく僕の頭を撫でてくる。別に嫌ではないから、特に文句は言わず好きなようにさせている。
多分僕がチビでちんちくりんで女の子みたいだから。怪我はいつまでも減らないし、どう見ても弱そうだから。
僕も翔みたいに、デカくて男らしくて足が早ければいいのに。どうしようもないんだけれど。ため息をついた。
「...はぁ、」
「どうしたんだよ」
「....あつくて」
服の中に熱が籠って本当に暑いから、多分嘘はついてない。意識すると、余計に暑くなったような気がした。
僕も半袖がいいなぁ。胸のところの布をぱたぱたとさせた。
翔が、撫で続けながら僕の方を眺めてくる。
「どしたの?」
「...いつか平気になったらいいよな」
「へへ、いつかね」
心を読まれたように言われたもんだから、また目を逸らした。
ペットボトルを首に挟んで、腕を包む袖をきゅっと掴む。袖の下の痣がじんわりと痛い。
翔はオカンみたいだ。撫でるし、過保護だし、僕の悩みを全部全部聞き出してしまう。
…僕はバレたくないのに。だって、まるでかわいそうだもん。
勝手に涙が出てきてしまう。「やっぱあついね」と言って、汗を拭うふりをした。